、思いがけない機会から非常に世間のためになる……被害者自身でさえも感謝しているであろう痛快な仕事を果してやったつもりでいる。六千円位の報酬では足りないと思っている位だ。
 私はこれから後《あと》もこの意味で世間へ挑戦してやろうと考えている。この事件を記録した一冊のノートと六千円を資本にして……。
 身におぼえのある堕落資本家諸氏よ。警戒するがいい……。
 外はモウ明るくなって来たようだ。
 ここいらで一服してみよう。
 私は今朝《けさ》の零時半キッカリに、南堂伯爵未亡人を、その自宅に訪問した。
 むろん、それは尋常一様の訪問ではなかった。手早く言えば脅喝の目的であった。
 私は日本屈指の大新聞、東都日報の外交部につとめる傍ら、本郷|西片町《にしかたまち》の小さな活版屋で、家庭週報という四|頁《ページ》新聞を、毎日曜|毎《ごと》に発行していた。その大部分は料理、裁縫、手芸なぞの切抜記事で、上流婦人や女優の消息、芝居、展覧会なぞの報道を申訳《もうしわけ》だけに掲載していたが、本来の目的は一箇月に一度位ずつ、女学校や、上流家庭の内幕を素破抜《すっぱぬ》いて、その新聞の全部を高価《たか》く売り
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