名の手紙を書いて、面会の時日を東都日報、中央夕刊の二つに広告しろと云ってやったら、その翌る朝、まだアパートで寝ているうちに、東都日報から……という電話がかかった。
私は慌てて飛び起きて受話器を取上げた。……又事件か……と思って、本能的にイヤな顔をしながら……。
「……オーイ……何だア……」
「……あの……お手紙ありがとう御座いました。今夜の十二時半キッカリに自宅の裏門でお眼にかかりましょう。おわかりになりまして……今夜の十二時半……わたくしの家《うち》の裏門……」
という未亡人自身の声がした。そうしてソレッキリ切れてしまった。
私は身内が引締まるのを感じた。
相手は何もかも知っているのだ。……ことによると明日《あした》が私の休み日になっている事までも知っているかも知れない。
そう思い思い私は充分の準備と警戒をしてコッソリとアパートを出た。
……何糞《なにくそ》……と冷笑しながら……。
指定された通りに裏門の潜《くぐ》り戸から這入ると、そこいらのベンチに待っていたらしい訪問着姿の未亡人が出迎えた。無言のままシッカリと私の手を握ったので又も緊張させられた。私が時間にキチョウ
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