たところを押えてから火蓋を切った方が有効、かつ安全と思ったので、それから暫くのあいだ躊躇するともなく躊躇していた。
 ところが、この家政婦の行方不明をキッカケにして、忘れかけていた煙突問題が、又もや、生き生きと私の頭に蘇って来たから不思議であった。
 それは私の第六感というものよりもモット鋭敏な或る神経の判断作用らしく感ぜられた。むろんあの煙突が伯爵の死後に起工されたことも、こうした判断を有力に裏書しているにはいたが……。
 しかしこの秘密を具体的に探り出すのはナカナカ容易な仕事でないことが最初からわかり切っていた。探りを入れるにしても大凡《おおよそ》の見当を付けてからの事にしなければならないと考えたが、そのアラカタの見当が、なかなか付かなかった。

 伯爵家の不動産が担保に這入りかけているという事実を、意外な方面からチラリと聞き出したのは、その頃の事であった。
 その話を聞かしてくれたのはC国公使のグラクス君であったが、そう聞いた瞬間に、これは棄てておけないぞ……と私は思った。マゴマゴしているうちに粕《かす》を絞らせられるような事になっては堪らぬと気が付いたので、すぐに一通の偽筆、匿
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