し和《あえ》もの。白魚白味トジ清汁。亜米利加鱒乾物酢。いずれも誠に少量なのでタッタ一口で片付いたものもある。そのうちにスッカリ満腹して涙ぐんでいる処へ、前記の後半部の献立がアトからアトから出て来るので大いに面喰らった。懐石というものは、こんなに早くお茶を飲んでしまっちゃいけなかったのかとも思い、又は懐石というものは一品も喰い残しちゃいけないものと聞いていたようにも思えて内心すくなからず迷ったが、ともかくも今一度箸を執って無理やりに嚥下してしまった。
 それから頼うだお方の手土産を披瀝されたが、そのうちにどこかの干柿があった。それを見た主人翁は、
「御迷惑か知らぬが、この柿を見ちゃ一服頂戴せずにはおれぬ」
 と言うので、手をたたくと次の間から盛装した振袖の美人が現われて、吾々三人に向って両手を支いて淑やかに一礼した。干柿なんて全く余計なものを持って来たものだと、内心怨めしく思っているうちにモウ釜の前で勿体らしいお手前が始まった。頼うだ人が、
「薄茶を……」
 と所望したのでその薄茶なるものが一人一人に運ばれたが、主人翁を入れてほかの三人は二杯ずつ飲んだけれども、筆者は頭を左右に振って御免
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