「……イイエ……お神さんが負うて帰らっしゃったかと思うて……妾《わた》しゃ……」
 二人は同時に青くなった。聞いていた金作も、何かわからないまま真青になった。
「……どうしたんか一体……」
「あたし……きょう……八幡様にまいって……」
「……ナニ……八幡様に参って……」
「……お宮の前のお湯に這入って……」
「……ナニイ……お湯に這入っタア……何《なん》しに這入ったんか……」
「……………」
「それからドウしたんか」
「……………」
「……泣いてもわからん……云わんかい」
「……落《おと》いて来たア……」
「……ワア――ア……」
 金作は二人を庭へタタキ倒した。黄な粉を引っくり返したまま、大砲のような音を立てて表口から飛び出した。
 お米も面喰《めんくら》ったまま起き上って、裏の田圃へ駈け出した。田を鋤《す》いている百姓を見付けると、金切声を振り絞った。
「大変だよ。ウチの人と一所に行っておくれよ。子供が……子供が居なくなったんだよッ……」
 一方に八幡裏のお湯屋では、亭主と、巡査と、近所の人が二三人、番台の前で評議をしていた。その中で巡査は帳面を開いたまま、何かしら当惑しているら
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