だねむい眼をコスリコスリ身体を拭いた。赤い帯を色気なく結んで表に出ると、長い田圃道をブラブラと、物を忘れたような気もちで歩いて帰った。
帰り着いてみるとお神《かみ》さんは、又も西日がテラテラし出した裏口で、石の手臼《てうす》をまわしながら、居ねむり片手に黄《き》な粉《こ》を挽《ひ》いていた。それでお千代も石臼につらまって、一所にウツラウツラしいしい加勢をしていたが、そのうちに四時頃になって夕蔭がさして来ると、山芋をドッサリ荷《かつ》いだ亭主の金作が、思いがけなく早く、裏口から帰って来た。
金作は界隈でも評判の子煩悩《こぼんのう》であったが、山芋を土間に投げ出して、いつも子供を寝かしておく表の神棚の下まで来ると、そこいらをキョロキョロと見まわしながら、大きな声で怒鳴った。
「オイ。子供はどうしたんか」
お米は妙な顔をしてお千代を見た。お千代も同じような顔をしてお米の顔を見上げた。
「オイ。どうしたんか……子供は……」
と亭主の金作は眼を丸くして裏口へ引っ返して来た。
お米はまだお千代の顔を見ていた。
「お前……背負うて来たんやないかい」
お千代もお米の顔をポカンと見上げていた
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