ーラ……ネ……バカタレーッ……バカタレーッ……てね……ね……ホッホッホッホッ」
 この笑い声を聞くと赤い鳥は、一寸《ちょっと》頭を傾けているようであったが、忽《たちま》ち思い出したようにパタパタと羽ばたきをした。籠の格子に掴まって、子供の顔を睨み下しながら、一際《ひときわ》高く叫び出した。
「……バカタレーッ……バカタレーッ……バカタレバカタレバカタレバカタレバカタレエーッ……」
 そう云う赤い鳥の顔を、眼をまん丸にして見上げていた大きい方の児が、みるみる渋面を作り出した。眼に涙を一パイ溜めたと思うと、口惜しそうにワーッと泣き出して、テングサの束を投げ出したまま裏木戸の方へ駈け出した。小さい方の児もテングサの雫《しずく》を引きずり引きずりあとから跟《つ》いて出て行った。笑いころげる夫婦の声をあとに残して……。

 大きい方の児は、すぐに網干場に駈け込んで、そこに突立っている赤褌の、桃の刺青をした男に縋《すが》り付いた。そうして一層泣き声を高めながら別荘の方を指《ゆびさ》して、切れ切れに訴えはじめた。
 桃の刺青はウンウンうなずきながら聞いていたが、そのうちに二三度鉢巻を締め直した。青筋
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