を立てて怒鳴った。
「……エエわからん……まっとハッキリ云え……ナニイ……あの別荘の奴等がか……ウンウン……あの赤い鳥にバカタレと云わせたんか……ウンウン……それに違いないナ」
 横に立っていた小さい児も、指を啣《くわ》えたまま、大きい児と一緒にうなずいた。
「……ヨシッ……わかった……泣くな泣くな……畜生めら……そんな了簡《りょうけん》で、あの赤い鳥を連れて来腐《きくさ》ったんだナ……ヨシッ……二人とも一緒に来い……」
 と云うより早く網を押しわけて別荘の方へ駈け出した。
 しかし裏口から赤煉瓦の中へ這入ってみると、別荘の中はガランとしていて、人の気はいもなかった。ただ表の植込みから蝉《せみ》の声が降るように聞こえて来るばかりなので、桃の刺青はチョッと張り合いが抜けた体《てい》であったが、そのうちに小松の蔭に吊してある、青塗りに金縁《きんぶち》の籠を見付けると、又急に元気附いた。
「コン畜生……ひねり殺してくれる」
 と独言《ひとりごと》を云い云い籠の口を開けて、黒光りに光る手首をグッと突込んだ。
 赤い鳥は驚いた。バタバタと羽根を散らして上の方へ飛び退《の》いたが、なおも真黒い手が
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