。つまりその、堕胎《おろ》された孩児《ややこ》というのは、取りも直さずお前の兄さんで、お前の代りに家倉《いえくら》を貰う身柄であったのを、闇から闇に落されたわけで、多分この事はお前の両親も知っていたろうと思われる証拠には……ソレ……その孩児《ややこ》を埋めた土の上がわざっと薪《たきぎ》置場にしてあったじゃろう。けれども、その兄貴の怨みはきょうまでも消えず、お前の家の跡を絶やすつもりで、お前の女房に祟っているのでナ……出て来たものを丁寧に祭れと云うたのはここの事ジャ……エーカナ。本当を云うと、これはお前の母親の過失《あやまち》で、お前や、お前の女房が祟られる筋合いの無いのじゃが、そこが人間凡夫の浅ましさでナ……」
 という風に和尚は、引き続いて長々とした説教を始めた。
 文作は青くなったり、赤くなったりして、首肯《うなずき》首肯《うなずき》聞いていたが、そのうちに立っても居てもいられぬようにソワソワし始めた。和尚の志の茶づけを二三杯、大急ぎで掻き込むとそのまま、霜|解《ど》けの道を走って帰った。

 ところが帰って来て見ると、文作が心配していた以上の大騒ぎになっていた。
 文作が昨日のう
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