ちに、軒下から孩児《ややこ》の骨を掘り出したまま、どこかへ逃げてしまっている。女房はそれを聞くと一ペンに血が上がって、医師《せんせい》が間に合わぬうちに歯を喰い締めて息を引き取った……というので文作の家《うち》の中には、村の女房達がワイワイと詰めかけている。家《うち》の外には老人や青年が真黒に集まって、泥だらけの白骨を中心に、大評議をしている……というわけで……そこへ文作が帰って来たのであったが、女房の死骸を一眼見ると、文作は青い顔をしたまま物をも云わず外へ飛び出して、村の人々を押しわけて、白骨の置いてある土盛りの処へ来た。ジイッと泥だらけの白骨を見ていたがイキナリその上に突伏して、
「兄貴……ヒドイ事をしてくれたなア……」
 と大声をあげて泣き出した。
 人々は文作が発狂したのかと思った。けれども、そのうちに、駐在所の旦那や区長さんが来て、顔中泥だらけにして泣いている文作を引きずり起こすと、文作は土の上に坐ったまま、シャクリ上げシャクリ上げして一伍一什《いちぶしじゅう》を話し出した。
 聞いていた人々は皆眼を丸くして呆《あき》れた。顔を見交して震え上った。うしろから取り巻いて耳を立て
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