「ウンウン。それじゃから云うて聞かすが、お前の母親《かかさん》というのは、ああ見えても若いうちはナカナカ男好きじゃったのでナ。ちょうどお前の処に嫁入る半年ばかり前に、拙僧《わし》の処へコッソリと相談に来おってナ……こう云うのじゃ。わたしはこの間の盆踊りの晩に、誰とも知れぬ男の胤《たね》を宿したが、まだ誰にも云わずにいるうちに、文太郎さんが養子に来ることになりました。わたしも文太郎さんなら固い人じゃけに、一緒になってもええと思うけれど、お腹《なか》の子があってはどうにもならぬ故《ゆえ》、どうか一ツ御祈祷をして下さらんかという是非ない頼みじゃ。そこで拙僧《わし》は望み通りに、真言秘密の御祈祷をしてやって、出て来た孩児《ややこ》はこれこれの処に埋めなさい……とまで指図をしておいたが……それがソレ……その骨じゃ。エエカナ……ところが、それから二十年余り経った昨日の事、お前がやって来てからの頼みで、卦《け》を立ててみると……どうじゃ……その盆踊りの晩に、お前の母親《かかさん》の腹に宿ったタネというのは、お前の父親《てておや》……すなわち文太郎のタネに相違ないという本文《ほんもん》が出たのじゃ
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