と一息して腰を伸ばした。
 するとその時に、今まで気がつかなかったが、最初に掘り返した下積みの土の端っこに、何やら白いものが二ツ三ツコロコロと混っているのが見えた。文作はそれを、何の気もなく月あかりに抓《つま》み出しながら、泥を払い落してみると、それは魚よりすこし大きい位の背骨の一部だったので、文作は身体《からだ》中の血が一時に凍ったようにドキンとした。ワナワナと慄《ふる》え出しながら、切れるように冷たい土を両手で掻き拡げて、丹念に探しまわってみると、泥まみれになってはいるが、脊椎骨《せぼね》らしいものが七八ツと、手足の骨かと思われるものが二三本と、わけのわからない平べったい、三角形の骨が二枚と、一番おしまいに、黒い粘《ねば》っこい泥が一パイに詰まった、頭蓋骨らしいものが一個《ひとつ》出た。
 文作は、もうすこしで大声をあげるところであったが、女房が寝ていることを思い出してやっと我慢した。身体中がガタガタと慄《ふる》えて、頭が物に取り憑《つ》かれたようにガンガンと痛み出した。横路地から這うようにして往来に出ると、一目散に馳け出した。
 文作が足萎え和尚の寝ている方丈の雨戸をたたいた時に
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