「近頃の新聞はチットでも訳のわからんことがあると、すぐに、ヘンタイ何とかチウて書きおるでナ。おらが思うに西村さんは、やっぱり親孝行者じゃったのよ。それが性《しょう》の悪い女に欺《だま》されて、大病人の母親を見すてたので、義理も恩もしらぬ近所隣りの乞食めらが、あとの世話を面倒がって、何とかかとかケチをつけて、無理往生に首を縊らせたのじゃないかと思うがナ……ドウジャエ……」
皆一時にシンとなった。
兄貴の骨
「お前の家の、一番西に当る軒先から、三尺離れた処を、誰にも知らせぬようにして掘って見よ。何尺下かわからぬが、石が一個《ひとつ》埋《うず》もっている筈じゃ。その石を大切に祭れば、お前の女房の血の道は一《ひ》と月経たぬうちに癒る。一年のうちには子供も出来る。二人ともまだ若いのじゃから……エーカナ……」
「ヘーッ」
と若い文作はひれ伏した。その向うには何でも適中《あた》るという評判の足|萎《な》え和尚《おしょう》さんが、丸々と肥った身体《からだ》に、浴衣がけの大胡座《おおあぐら》で筮竹《ぜいちく》を斜《しゃ》に構えて、大きな眼玉を剥《む》いていた。
その座布団の前に文作は
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