、五拾円也の為替を入れて聯隊長宛に送って来た。これを本紙の記事によって知った警察当局では、極秘裡に彼女の所在を厳探中《げんたんちゅう》であったが、あくまでも大胆不敵なお玉は、その中を潜って西村と関係を結んだらしく、すっかり西村を丸め込んでしまった揚句《あげく》、二人で自動車に同乗して、贋《にせ》の母親を嘲弄《ちょうろう》しに行ったのが一昨日曜の午前中の事であったという。ところが西村はそのまま、隊へは帰らずに、駅前の旅館で服装を改めて、お玉と一緒に逃亡した模様である。一方に西村の贋《にせ》母親は、憤慨の余り縊死《いし》していることが昨朝に至って発見されたので、早速係官が出張して取調《とりしらべ》の結果、他殺の疑いは無いことになった。しかし、同時に、附近の乞食連中の言に依って、この種の変態的関係は、彼等仲間の通有的茶飯事で、決して珍らしい事ではないと判明したので、係官も苦笑に堪えず……云々……。
[#ここで字下げ終わり]
「……ところでこの、ヘンタイ、セイヨクの、何とかチウのは、何じゃろか……」
「おらにもわからんがナ」
 と荒物屋の隠居は、大勢に取り巻かれながら、投げ出すように云った。

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