、表へ飛び出して見送った。その中から一人行き、二人駈け出しして行ったので、川上の部落のまわりは黒山のような人だかりになったが、そんな連中が帰って来てからの話によると、事件というのは西村のお母《っか》さんが昨夜《ゆうべ》のうちに首を縊《くく》ったので、昨日《きのう》のハイカラ美人《さん》が殺したのじゃないかと、疑いがかかっているらしい……というのであった。
しかし、それにしても様子がおかしいというので、評議が区々《まちまち》になっていたが、あくる朝を待ちかねて人々が、荒物屋に集まってみると、果して、事件の真相が詳しく新聞に出ていた。「模範兵士の化けの皮」という大きな標題《みだし》で……
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……西村二等卒の性行を調査の結果、表面温順に見える一種の白痴で、且《か》つ、甚だしい変態性慾の耽溺者であることがわかった。すなわち、その母親として仕えていたのは、実は子供の時から可愛がられていた情婦に過ぎないのであったが、最近に至って有名な箱師《はこし》のお玉という、これも変態的な素質を持った毒婦が、模範兵士の新聞記事を見て、大胆にも原籍本名を明記した封筒に、長々しい感激の手紙と
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