ハイカラ美人《さん》の手を取りながら、自動車に乗ってドンドン逃げて行った。あとにはお母《っか》さんが片息になって倒れているのを、皆《みんな》で介抱しているようであったが、離れた処から見ていた上に、言葉が普通《あたりまえ》と違っているので、どんな経緯《いきさつ》なのかサッパリわからなかった……という子守女《こもり》たちの報告であった。
「フーン。それは、わかり切っとるじゃないか」
と、聞いていた荒物屋の隠居は、新聞片手に子守女《こもり》たちを見まわした。
「西村さんのお母《っか》さんが、そんな女は嫁にすることはならんと云うて、止めたまでの事じゃがナ」
子守女《こもり》たちは、みんな妙な顔をした。何だかわかったような、わからぬようなアンバイで、張り合い抜けがしたように、荒物屋の店先から散って行った。
ところが又、その翌る日の正午《ひる》頃になると、村の駐在巡査と、部長さんらしい金モールを巻いた人を先に立てて、村の村医《せんせい》と腰にピストルをつけた憲兵との四人が、めいめいに自転車のベルの音をケタタマシク立てながら村を通り抜けて、川上の方へ行ったので、通り筋の者は皆、何事かと思って
前へ
次へ
全88ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング