と、自分のシャツを一緒にして、朝霜の大川で洗濯するのを眺めながら「あたし西村さんの処へお嫁に行って上げたい」「ホンニナア」と涙ぐむ者さえあった。
そのうちに新聞社や、聯隊へ宛ててドシドシ同情金が送りつけて来たが、中には女の名前で、大枚「金五十円也」を寄贈するものが出来たりしたので、西村さんは急に金持ちになったらしく、同じ部落の者の世話で、母親の寝ている蒲鉾小舎を、家らしい形の亜鉛板《トタン》張りに建て換えたりした。
「親孝行チウはすべきもんやナア」
と村の人々は歎息し合った。
ところが間もなく大変な事が起った。
ちょうど桜がチラチラし初めて、麦畑を雲雀《ひばり》がチョロチョロして、トテモいい日曜の朝のこと。カーキー色の軍服を、平生《いつも》よりシャンと着た西村さんが、それこそ本当に活動女優ソックリの、ステキなハイカラ美人《さん》と一緒に自動車に乗って、川上の部落へやって来たのであった。
尤《もっと》もこの日に限って西村さんは、何となく気が進まぬらしい態度《ようす》で、自動車から降りると、泣き出しそうな青い顔をして尻込みをしているのを、ハイカラ美人《さん》が無理に手を引っぱっ
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