て、亜鉛《トタン》張りの家《うち》に這入ったが、母親はまだ睡っていたらしく、二人とも直ぐに外へ出て来た。
それから西村さんは直ぐに帰ろうとして自動車の方へ行きかけたけれども、ハイカラサンが無理やりに引き止めた。そうして自動車の中から赤い毛布を一枚と、美味《うま》そうなものを一パイ詰めた籠を出して、雑木林の中の空地に敷き並べると、部落に残っている片輪《かたわ》連中を五六人呼び集めて、奇妙キテレツな酒宴《さかもり》を初めた。
まず、最初は三々九度の真似事らしく、顔を真赤にして羞恥《はにか》んでいる西村さんと、キャアキャア笑っているハイカラ美人《さん》が、呆気《あっけ》に取られている片輪たちの前で、赤い盃を遣ったり取ったり、押し戴いたりしていたが、間もなく外《ほか》の連中も、白い盃や茶呑茶碗でガブガブとお酒を呑み初めた。その御馳走の中には、ネジパンや、西洋のお酒らしい細長い瓶や、ネープル蜜柑などがあったが、その他は誰一人見たことも聞いたこともない鑵詰《かんづめ》みたようなものばかりを、寄ってたかってお美味《いし》そうにパクついていた。
西村さんもハイカラ美人《さん》にお酌をされて恥かし
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