かわせ》も来るし、越中富山の薬売りも立ち寄る。それに又この頃は、日ごとに軍服|厳《いか》めしい兵隊さんが帰省して来るというので、急に村の注意を惹き出した。何でも立派な身分の人の成《な》れの果《はて》が隠れているらしいという噂であった。
その兵隊さんというのは、郵便局員の話によると西村さんというので、眼鼻立ちのパッチリした、活動役者のように優しい青年であるが、この部落の仲間では新米らしく、すこし離れた所に蒲鉾小舎を作って、その中に床に就いたままの女を一人|匿《かく》まっている。その女の顔はよくわからないが年の頃は四十ばかりで、気味の悪いほど色の白い上品な顔で、西村さんがお土産《みやげ》をさし出すと、両手を合わせて泣きながら受け取っているのを見た……と……これは村の子守《こもり》たちの話であった。
それから後《のち》西村さんの評判は、だんだん高くなるばかりであった。その女は西村さんの何であろうか……と噂が取り取りであったが、そのうちに、村でたった一軒だけ荒物屋に配達されている新聞に、西村さんの事が大きく写真入りで出た。
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――西村二等卒は元来、東北の財産家の一人息
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