い横暴な仕うちは、イクラ恨んでも恨み切れません。妾《わたし》はもう我慢出来なくなりましたから、勇作さんと一緒に、どこか遠い所へ行ってスウィートホームを作ります。私たちは当然私たちのものになっている財産の一部を持って行きます。さようなら。どうぞ幸福に暮して下さい。
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月 日
[#地から3字上げ]勇作
[#地から3字上げ]妻加代
母上様
それでは後家さんはどこへ行ったのだろうと、家中を探しまわると、物置の梁《はり》から、半腐りの縊死体《いしたい》となってブラ下っているのが発見された。その足下にはボロ切れに包んだ古鍋が投げ棄ててあった。
模範兵士
御維新後、煉瓦《れんが》焼きが流行《はや》った際に、村から半道ばかり上《かみ》の川添いの赤土山を、村の名主どんが半分ばかり切り取って売ってしまった。そのあとの雑木林の中から清水が湧くのを中心にして、いつからともなく乞食の部落が出来ているのを、村の者は単に川上川上と呼んでいた。
部落といっても、見すぼらしい蒲鉾小舎《かまぼこごや》が、四ツ五ツ固まっているきりであったが、それでも郵便や為替《
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