の云うことは、ちっとも訳が解らんじゃないか」
「何故ですか……旦那……」
「何故というて考えてみろ。兼のそぶりで金の貸し借りを判断するちう事からして間違っているし……」
「間違っておりません……あいつは……ワ……私を毒殺しようとしたんです……旦那の方が無理です」
「黙れッ……」
 と巡査部長は不意に眼を怒らして大喝した。坑夫の云い草が機嫌に触《さわ》ったらしく、真赤になって青筋を立てた。
「黙れ……不埒《ふらち》な奴だ。第一貴様はその証拠に、その薬で風邪が治っとるじゃないか」
「ヘエ……」
 と坑夫は毒気を抜かれたように口をポカンと開《あ》いた。そこいらを見まわしながら眼を白黒さしていたが、やがてグッタリとうなだれると床の上にペタリと坐り込んだ。涙をポトポト落してひれ伏した。
「……兼……済まない事をした……旦那……私を死刑にして下さい」

     古鍋

「金貸し後家《ごけ》」と言えば界隈で知らぬ者は無い……五十前後の筋骨逞ましい、二《ふ》タ目と見られぬ黒アバタで……腕っ節なら男よりも強い強慾者で……三味線が上手《じょうず》で声が美しいという……それが一人娘のお加代というのと、たっ
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