た二人切りで、家倉《いえくら》の立ち並んだ大きな家に住んでいた。しかし娘のお加代というのは死んだ親爺《おやじ》似かして、母親とは正反対の優しい物ごしで、色が幽霊のように白くて、縫物が上手という評判であった。
そのお加代のところへ、隣り村の畳屋の次男坊で、中学まで行った勇作というのが、この頃毎晩のように通って来るというので、兼ねてからお加代に思いをかけていた村の青年たちが非常に憤慨して、寄り寄り相談を初めた。そのあげく五月雨《さみだれ》の降る或る夕方のこと、手に手に棒千切《ぼうちぎり》を持った十四五人が「金貸し後家」の家《うち》のまわりを取り囲むと、強がりの青年が三人代表となって中に這入《はい》って、後家さんに直接談判を開始した。
「今夜この家に、隣り村の勇作が這入ったのを慥《たし》かに見届けた。尋常に引渡せばよし、あいまいな事を云うなら踏み込んで家探しをするぞ……」
という風に……。
奥から出て来た後家さんは、浴衣《ゆかた》を両方の肩へまくり上げて、黒光りする右の手でランプを……左手に団扇《うちわ》を持っていたが、上《あが》り框《かまち》に仁王立ちに突立ったまま、平気の平左で三人
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