をきくと私は、すぐに納屋を出まして坑《まぶ》へ降りて、仕事をしている兼を探し出して、うしろから脳天を喰らわしてやりました。そうして旦那の処へ御厄介を願いに来ましたので……逃げも隠れも致しません。ヘエ……」
「フーム。しかしわからんナ。どうも……その兼をやっつけた理由が……」
「わかりませんか旦那……兼の野郎は私が病気しているのにつけ込んで、私を毒殺して、十両ゴマ化そうとしたに違いないのですぜ。あいつはもとから物識《ものし》りなのですからね。ネエ旦那そうでしょう、一ツ考えておくんなさい」
「ウップ……たったそれだけの理由か」
「それだけって旦那……これだけでも沢山じゃありませんか」
「……バ……馬鹿だナア貴様は……それじゃ貴様が、兼に十両貸したのは、間違いない事実だと云うんだナ」
「ヘエ。ソレに違いないと思うので……そればっかりではありません。兼の野郎が私を馬と間違えたと思うと矢鱈《やたら》に腹が立ちましたので……」
「アハハハハ……イヨイヨ馬鹿だナ貴様は……」
「ヘエ……でも私は恥を掻《か》かされると承知出来ない性分で……」
「ウーン。それはそうかも知れんが……しかし、それにしても貴様
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