を抱えた。
 その時にやっと後家さんは、云い損ないに気が付いたらしく、生娘《きむすめ》のように真赤になったが、やがて袖に顔を当てるとワーッと泣き出した。

     夫婦の虚空蔵《こくうぞう》

「あの夫婦は虚空蔵さまの生れがわり……」
 という子守娘の話を、新任の若い駐在巡査がきいて、
「それは何という意味か」
 と問い訊《ただ》してみたら、
「生んだ子をみんな売りこかして、うまいものを喰うて酒を飲まっしゃるから、コクウゾウサマ……」
 と答えた。巡査はその通り手帳につけた。それからその百姓の家《うち》に行って取り調べると、五十ばかりの夫婦が二人とも口を揃えて、
「ハイ。みんな美しい着物を着せてくれる人の処へ行きたいと申しますので……」
 と済まし返っている。
「フーム。それならば売った時の子供の年齢は……」
「ハイ。姉が十四の年で、妹が九つの年。それから男の子を見世物師に売ったのが五つの年で……。ヘエ。証文がどこぞに御座いましたが……間違いは御座いません。ついこの間のことで御座いますから。ヘエ……」
 巡査はこの夫婦が馬鹿ではないかと疑い初めた。しかも、なおよく気をつけてみると、今
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