一人の子供が女房の腹の中に居るようす……。
巡査は変な気持ちになって帳面を仕舞《しま》いながら、
「フーム。まだほかに子供は無いか」
と尋ねると、夫婦は忽ち真青になってひれ俯した。
「実は四人ほど堕胎《おろ》しましたので……喰うに困りまして……どうぞ御勘弁を――」
巡査は驚いて又帳面を引き出した。
「ウーム不都合じゃないか。何故そんな勿体ないことをする」
というと、青くなっていた亭主が、今度はニタニタ笑い出した。
「ヘヘヘヘヘヘ。それほどでも御座いません。酒さえ飲めばいくらでも出来ますので……」
巡査は気味がわるくなって逃げるようにこの家《うち》を飛び出した。
「この事を本署に報告しましたら古参の巡査から笑われましたヨ。何でも堕胎罪で二度ほど処刑されている評判の夫婦だそうです。二人とも揃って低能らしいので、誰も相手にしなくなっていたのだそうです」
と、その巡査の話。
汽車の実力試験
「この石を線路に置いたら、汽車が引っくり返るか返らないか」
「馬鹿な……それ位の石はハネ飛ばして行くにきまっとる」
「インニャ……引き割って行くじゃろうて……」
「論より証拠やって
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