る村外れの茶屋の竈《かまど》の前で、痩せ枯《かれ》た小さな身体《からだ》が虚空《こくう》を掴んで悶絶していた。平生《ふだん》腰帯にしていた絹のボロボロの打ち紐《ひも》が、皺《しわ》だらけの首に三廻《みまわ》りほど捲かれて、ノドボトケの処で唐結《からむす》びになったままシッカリと肉に喰い込んでいたが、その結び目の近まわりが血だらけになるほど掻き※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》られている。しかし何も盗まれたもようは無く、外から人の這入った形跡も無い。法印さんの処から貰って帰ったお重詰めは、箸をつけないまま煎餅布団《せんべいぶとん》の枕元に置いてあった。貯金の通《かよ》い帳《ちょう》は方々探しまわったあげく、竈の灰の下の落し穴から発見された。その遺産を受け継ぐべき婆さんのたった一人の娘と、その婿になっている電工夫は、目下東京に居るが、急報によって帰郷の途中である。婆さんの屍体は大学で解剖することになった……近来の怪事件……というので新聞に大きく出た。
お安婆さんの茶店は、鉄道の交叉点のガードの横から、海を見晴らしたところにあった。古ぼけた葭簀《よしず》張りの下に、すこ
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