っぽの飯櫃《めしびつ》がころがって、無残に喰い荒された漬物の鉢と、土瓶《どびん》と、箸《はし》とが、飯粒《めしつぶ》にまみれたまま散らばっている。そんなものをチラリと見た若い主人の眼は、すぐに仏壇の下に移ったが、泥足のままかけ上って、半分開いたまんまの小抽出しを両手でかきまわした。
「ヤラレタ……」
と云ううちに見る見る青くなってドッカリと尻餅を突いた。頭を抱えて縮み込んだ。表の見物人はまん丸にした眼を見交《みかわ》した。
「……マア……可哀相に……留守番役のおふくろが死んだもんじゃけん」
「キット流れ渡りの坑夫のワルサじゃろ……」
その囁《ささや》きを押しわけてこの家《や》の若い妻君が帰って来た。やはり野良行きの姿であったが、信玄袋を探し当てて出て行く乞食爺の姿を見かえりもせずに、泥足のままツカツカと畳の上にあがると、若い主人の前にベッタリと坐り込んだ。頭の手拭を取って鬢《びん》のほつれを掻き上げた。無理に押しつけたような声で云った。
「お前さんは……お前さんは……この小抽出しに何を入れておんなさったのかえ……妾《わたし》に隠して……一口も云わないで……」
若い主人はアグラを掻
前へ
次へ
全88ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング