ていた見物人が又ヒッソリとなった。
麦稈帽を阿弥陀《あみだ》に冠《かぶ》った爺さんは、竹の杖を持ったままガタガタとふるえ出した。ペッタリと土間に坐りながら片手をあげて拝む真似をした。
「……ど……どうぞお助け……御勘弁を……」
「助けてやる。勘弁してやるから申し上げろ。何がためにこの家に這入ったか。何の必要があれば……最前からアヤツリを使ってコンナに大勢の人を寄せたのか。ここを公会堂とばし思ってしたことか」
爺さんは見えぬ眼で次の間《ま》をふり返って指《さ》した。
「……サ……最前……私が……このお家に這入りまして……人形を使い初めますと……ア……あそこに居られたどこかの旦那様が……イ……一円……ク下さいまして……ヘイ……おれが飯を喰っている間《ま》に……貴様が知っているだけ踊らせてみよ……トト、……おっしゃいましたので……ヘイ……オタスケを……」
「ナニ……飯を喰ったア……一円くれたア……」
若い主人はメンクラッたらしく眼を白黒さしていたが、忽ち青くなって信玄袋を投げ出すと、次の間《ま》の上《あが》り框《かまち》に駈け寄った。そこにひろげられた枕屏風《まくらびょうぶ》の蔭に、空
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