この呪いから逃れるすべがない事をくり返しくり返し思い知らせられたであろう。
 ……そうして百年後の今日只今……
 ……私の額から冷たい汗が流れ初めた。室中の暖か味が少しも身体に感じなくなった。背中がゾクゾクして来ると共に肩から手足の力が抜けて鼓を取り落しそうになった。眼の前が青白く真暗くなりそうになって力なく鼓を膝の上におろした。わななく手でハンカチを掴んで額の汗を拭いた。
 妻木君が慌てて羽織を着せた。鶴原未亡人は立ち上って袋戸棚から洋酒の小瓶を取り出して来てふるえる手で私に小さなグラスを持たした。そうして私に火のような酒を一杯グッと飲み干させると今一杯すすめた。
 私は手を振りながらフーッと燃えるような息を吐《つ》いた。
「大丈夫で御座いますか……御気分は……」
 と未亡人は私の顔をのぞいた。妻木も私の顔を心配そうに見ている。私は微笑して肩を大きくゆすりながら羽織の紐《ひも》をかけた。飲み慣れぬアルコール分のおかげで血のめぐりがズンズンよくなるのを感じながら……。
「まあ……ほんとに雪のように真白におなり遊ばして……今はもうよほど何ですけれど……」
 と未亡人は魘《おび》えた声で云
前へ 次へ
全84ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング