あやかしの鼓
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鼓《つづみ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)音丸|久能《くのう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)これをしかけ[#「しかけ」に傍点]て
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私は嬉しい。「あやかしの鼓《つづみ》」の由来を書いていい時機が来たから……
「あやかし」という名前はこの鼓の胴が世の常の桜や躑躅《つつじ》と異《ちが》って「綾《あや》になった木目を持つ赤樫《あかがし》」で出来ているところからもじったものらしい。同時にこの名称は能楽でいう「妖怪《アヤカシ》」という意味にも通《かよ》っている。
この鼓はまったく鼓の中の妖怪である。皮も胴もかなり新らしいもののように見えて実は百年ばかり前に出来たものらしいが、これをしかけ[#「しかけ」に傍点]て打ってみると、ほかの鼓の、あのポンポンという明るい音とはまるで違った、陰気な、余韻の無い……ポ……ポ……ポ……という音を立てる。
この音は今日《こんにち》迄の間に私が知っているだけで六、七人の生命を呪った。しかもその中の四人は大正の時
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