代にいた人間であった。皆この鼓の音を聞いたために死を早めたのである。
 これは今の世の中では信ぜられぬことであろう。それ等の呪われた人々の中で、最近に問題になった三人の変死の模様を取り調べた人々が、その犯人を私――音丸久弥《おとまるきゅうや》と認めたのは無理もないことである。私はその最後の一人として生き残っているのだから……。
 私はお願いする。私が死んだ後《のち》にどなたでもよろしいからこの遺書を世間に発表していただきたい。当世の学問をした人は或《あるい》は笑われるかも知れぬが、しかし……。
 楽器というものの音が、どんなに深く人の心を捉えるものであるかということを、本当に理解しておられる人は私の言葉を信じて下さるであろう。
 そう思うと私は胸が一パイになる。

 今から百年ばかり前のこと京都に音丸|久能《くのう》という人がいた。
 この人はもとさる尊とい身分の人の妾腹《しょうふく》の子だという事であるが、生れ付き鼓をいじることが好きで若いうちから皮屋へ行っていろいろな皮をあつらえ、また材木屋から様々の木を漁《あさ》って来て鼓を作るのを楽しみにしていた。そのために親からは疎《うと》ん
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