ゅぶさ》のついた括《くく》り枕《まくら》と塗り枕、墨絵を描いた白地の蚊帳《かや》……。
「ええ……もう結構です……」
と私は妙に気が退《ひ》けて押し止めた。しかし妻木君はきかなかった。放り出した夜具類を、もとの通りに片付けると今度は隣り側の襖を開いて内部一面に切り組んである衣装棚を引き出し初めた。
「イヤ。わかりました。わかりました。あなたがお調べになったのなら間違いありません」
「そうですか……それじゃ箪笥を……」
「もう……もう本当に結構です」
「じゃ御参考に鼓だけお眼にかけておきましょう」
と云ううちに右手の違い棚から一つ宛《ずつ》四ツの鼓箱を取り下した。私はそれを受け取って室《へや》の真中に置いた。
箱から取り出された四ツの仕掛け鼓が私の前に並んだ時私は何となく胸が躍った。この中に「あやかしの鼓」が隠れていそうな気がしたからである。
この道にすこしでも這入った人は皆知っている通り、鼓の胴と皮とは人間でいえば夫婦のようなもので、元来別々に出来ていて皮には皮の性《しょう》があり胴には胴の性がある。その二つの性が合って始めて一つの音色が出るので、仮令《たとい》どんな名器同志の
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