しゃ》な桐の角火鉢とが行儀よく並んでいる。その左の桐の箪笥《たんす》の上には大小の本箱が二つと、大きな硝子《ガラス》箱入りのお河童《かっぱ》さんの人形が美しい振り袖を着て立っている。
右手には机に近く茶器を並べた水屋《みずや》と水棚があって、壁から出ている水道の口の下に菜種《なたね》と蓮華草《れんげそう》の束が白糸で結《ゆ》わえて置いてある。その右手は四尺の床の間と四尺の違い棚になっているが床の間には唐美人の絵をかけて前に水晶の香炉を置き、違い棚には画帖らしいものが一冊と鼓の箱が四ツ行儀よく並べてある。その上下の袋戸と左側の二間一面の押し入れに立てられた新しい芭蕉布の襖《ふすま》や、つつましやかな恰好の銀色の引き手や、天井の真中から下っている黒枠に黄絹張りの電燈の笠まで何一つとして上品でないものはない。
私は思わず今一度溜め息をさせられた。
「これが伯母の居間です」
といううちに妻木君は左側の押し入れの襖を無造作にあけて、青白い二本の手を突込んで中のものを放り出し初めた……縮緬《ちりめん》の夜具、緞子《どんす》の座布団、麻のシーツ、派手なお召の掻《か》い巻《ま》き、美事な朱総《し
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