もの、室《へや》の隅の電気ストーブ、向うの窓際の大きな長椅子、天井から下った切り子細工の電燈の笠――。
妻木君はその中に這入って先ず化粧台の下からあらため初めた。しかし私はその時鼓を探すということよりもかなり年増になっている筈の鶴原未亡人が、こんな女優のいそうな室でお化粧をしている気持ちを考えながら眼を丸くしていた。
「この室も不思議なことはないんです」
と妻木君は私の顔を見い見い微笑して扉《ドア》を閉じた。そうして次に今一つある西洋間の青い扉《ドア》の前を素通りにして一番向うの廊下の端にある日本間の障子に手をかけた。
「この室は……」と私は立ち止まって青い扉《ドア》を指した。
「その室は問題じゃないんです。一面にタタキになって真中に鉄の寝台が一つあるきりです。問題じゃありません」
と妻木君は何だかイマイマしいような口つきで云った。
「ヘエ……」
と云いながら私はわれ知らず鍵穴に眼を近づけて内部《なか》をのぞいた。
青黒く地並になった漆喰《しっくい》の床と白い古びた土壁が向うに見える。あかり窓はずっと左の方に小さいのがあるらしく、その陰気で淋しいことまるで貧乏病院の手術室であ
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