に子爵様はとうとう糸のように痩せ細って、今年の春亡くなってしまった。
そうすると鶴原の未亡人《ごけさん》は、そのあとへ、自分の甥《おい》とかに当る若い男を連れて来て跡目にしようとしたが、鶴原の親類はみんなこの仕打ちを憤《おこ》ってしまって、お上《かみ》に願って華族の名前を除くといって騒いでいる。おまけに若未亡《わかごけ》のツル子さんについても、よくない噂ばかり……ドッチにしても鶴原家のあとは断絶《たえ》たと同様になってしまった。
おれは誰にも云わないが、これはあの『あやかしの鼓』のせい[#「せい」に傍点]だと思う。そうして、それにつけておれはこの頃から決心をした。お前は俺の子だけあって鼓のいじり方がもうとっくにわかっている。今にきっと打てるようになると思う。
けれども俺はお前に云っておく。お前はこれから後《のち》、忘れても鼓をいじってはいけないぞ。これは俺の御幣担《ごへいかつ》ぎじゃない。鼓をいじると自然いい道具が欲しくなる。そうしておしまいにはキットあの鼓に心を惹かされるようになるから云うんだ。あのアヤカシの鼓は鼓作りの奥儀をあらわしたものだからナ……。
そうなったらお前は運
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