女《むすめ》のうちだけが花よ、学校にいればまた試験とか何とかいうて相応に苦労がある、マア学校を卒業して二三年親のところにいる間が女としては幸福な時だね、学校を卒業するとすぐお嫁にやるなんて乳母も乳母だ、あんまり気が利かな過ぎるじゃあないか」生意気な河合はちょうど演説でもするように喋《しゃべ》る。
「ヒヤヒヤ、二三年目黒にいて時々停車場へ遊びに来るようだとなおいいだろう」と柳瀬という新しい駅夫が冷かすと、岡田が後へついて「柳瀬なんぞは知るまいがこれには深い原因《わけ》があるのだね、河合君は知っているさ、ねえ君!」
「藤岡なんぞあれで一時大いに欝《ふさ》ぎ込んだからね」と私の方を見て冷笑する、私は思わず顔をあからめた。
姿なり、いでたちなり、婦人《おんな》というものはなるたけ男の眼を惹《ひ》きつけるように装うてそれでやがて男の力によって生きようとするのだ。男の思いを惹こうとするところに罪がある。それは婦人が男によって生きねばならぬ社会の罪だ。罪は罪を生む。私たちのように汚れた、疲れた、羞かしい青年は空《むな》しく思いを惹かせられたばかりで、そこに嫉妬が起る、そこに誹謗《そしり》が起る、私
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