うな、絶え入るような小坊主の読経は、細くとぎれとぎれに続いた。小林監督は項垂《うなだ》れて考え込んでいる。

     *    *    *

「工事が済み次第行くつもりだ、しばらくあっちへ行って働いて見るのも面白かろう、同志《なかま》はすぐにも来てくれるようにと言うのだけれど今ここを外すことは出来ない、それに正軌倶楽部の方の整理《しまつ》もつけて行かなけりゃあ困るのだから、早くとも来年の三月末ころにはなるだろうな」
「そうなれば私も非常に嬉しいのです。停車場の方もこのごろはつくづく嫌になりましたし、なるたけ早く願いたい方です」と私は心から嬉しく答えた。
「駅長も来年の七月までということだし、それにあっちへ行けば、同志の者は僕を非常に待っていてくれるのだから、君も今より少しはいい位置が得られるだろうと思う、かたがた君のためにはマア幸福かも知れない」
「足立さんも満足して下さるでしょう」
「あの男も実に好人物だ、郷里《くに》の小学校にいた時分からの友達で、鉄道に勤めるようになってからもう二十年にもなるだろう、もう少し覇気《はき》があったなら相当な地位も得られたろうに、今辞職しちゃ細君も
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