に新しく崩れたという様子もない。
「どうしたんだい、誰か負傷《けが》でもしたの」と一人が聞くと、「人が出たんですとさ、人が!」と牛乳配達らしいのが眼を丸くして言う。私は事の意外に驚いたが、もしやと言う疑念が電光《いなずま》のように閃いたので、無理に人を分けて前へ出て見た。
疑念というのは、土の崩れた中から出た死骸《しがい》が、フト私の親しんだ乞食の少年ではないだろうか、少年は土方の夜業をして捨てて行った燼《もえさし》にあたるために隧道の上の菰掛《こもが》けの仮小屋に来ていたのを私はたびたび見たことがあったからである。見ると死骸はもう蓆に包んで顔は見えないけれども、まだうら若い少年の足がその菰の端から現われているので、私はそれがあの少年にまぎれもないことを知った。
ああ、可憐《かあい》そうなことをした!
どこからともなく襲うて来た一種の恐怖が全身に痺《しび》れ渡って、私はもう再びその菰包みを見ることすら出来なかった。昨日まであんなにしていたものを、人間の運命というものは実に分らないものだ。何という薄命な奴だろう、思うに昨夜の寒さを凌《しの》ぎかねて、焚火の燼の傍に菰を被ったままうず
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