そ死人があったんだ」
「馬鹿ア言え夜だからこんなことがあったんだ、霜柱のせいじゃあないか」
「生意気なことを言やあがる、手前見たような奴だ、こんなところで押し潰《つぶ》される玉は! あんまり強吐張《ごうつくば》りを言やあがると後生《ごしょう》がないぞ」
 日がさして瓦屋根の霜の溶ける時分には近処の小売屋の女房《かみさん》も出て来れば、例の子守女も集まって喧しい騒ぎになって来た。監督の命令で崩れた土はすぐ停車場《ステーション》前の広場に積み上げる、夜を日についでも隧道《トンネル》工事を進めよというので、土方は朝からいつにない働き振りである。
 霜日和《しもびより》の晴れ渡ったその日は、午後から鳶色《とびいろ》の靄《もや》が淡《うす》くこめて、風の和《な》いだ静かな天気であった。午後四時に私は岡田と交代して改札口を出ると今朝大騒ぎのあった隧道のところにまた人が群立って何か事故《こと》ありげに騒いでいる。どうしたのだろう、また土が崩れたのではあるまいか、そうだそれに違いないと独りで決めて見物人の肩越しにのぞいて見ると、土は今朝見たまま、大かた掘り出してちょうど井戸のようになっているばかりで別
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