から篝火《かがりび》を焚いて忙しそうに工事を急いでいる。灯の影に閃《ひらめ》く得物の光、暗にうごめく黒い人影、罵《ののし》り騒ぐ濁声《だみごえ》、十字鍬や、スクープや、ショーブルの乱れたところは、まるで戦争《いくさ》の後をまのあたり観るようである。
 大崎村の方から工事を進めて来た土方の一隊は長峰の旧《もと》の隧道《トンネル》に平行して、さらに一個《ひとつ》の隧道を穿《うが》とうとしている。ちょうどその隧道が半分ほど穿たれたころのことであった。一夜霜が雪のように置き渡して、大地はさながら鉱石《あらがね》を踏むように冱《い》てた朝、例の土方がてんでに異様ないでたちをして、零点以下の空気に白い呼気《いき》を吹きながら、隧道の上のいつものところで焚火をしようと思ってやって来て見ると、土は一丈も堕《お》ち窪《くぼ》んで、掘りかけた隧道は物の見事に破壊《くず》れている。
「ヤア、大変だぞ※[#感嘆符二つ、1−8−75] こりゃあ危ない※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と叫ぶものもあれば「人殺しい、ヤア大変だ」と騒ぎ立てる者もある。
「夜でマアよかった、工事最中にこんなことがあろうものなら、それこ
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