遅れがちの卑しい根性をだんだんに捨てて行くことが出来た。
 新しい希望に満たされて、私は新しい秋を迎えた。

     二十

「今日の社会は大かた今僕が話したような状態《ありさま》で、ちょうどまた新しい昔の大名《だいみょう》が出来たようなものだ。昔の大名は領土を持っていて、百姓から自分勝手に取立てをして、立派な城廓《しろ》を築いたり、また大勢の臣下《けらい》を抱えたりしていた。今話した富豪《かねもち》という奴がやっぱり昔の大名と同じで、領土の代りに資本を持っている大仕掛けの機械を持っている。資本と機械とがあればもうわれわれ労働者の生血を絞り取ることは容易いものだ。昔の祖先《じいさん》たちが土下座をして大名の行列を拝んでいるところへ行って、今から後にはお大名だとか将軍様だとかいうものがなくなって、皆同等の人間として取り扱われる時が来るというて見たところで、それを信ずるものは一人もなかったに違いない。けれども時が来れば大名もなくなる、将軍もなくなる。今僕がここで君に話したようなことを、同輩《なかま》に聞かして見たところで仕方がない。
 いや、僕にしてからがこれからの社会はどんなであろうと
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