うたれる。恵比須停車場の新設地まで泥土を運搬して行った土工列車が、本線に沿うてわずかに敷設された仮設|軌道《レール》の上を徐行して来る。見ると渋を塗ったような頑丈な肌を、烈しい八月の日にさらして、赤裸体《あかはだか》のもの、襯衣《シャツ》一枚のもの、赤い褌《ふんどし》をしめたもの、鉢巻をしたもの、二三十人がてんでに得物《えもの》を提げてどこということなしに乗り込んでいる。汽鑵の正面へ大の字にまたがっているのがあるかと思えば、踏台へ片足かけて、体躯《からだ》を斜めに宙に浮かせているのもある。何かしきりに罵《ののし》り騒ぎながら、野獣のような眼をひからせている形相は所詮《しょせん》人間とは思われない。
 よほどのガラクタ汽鑵と見えて、空箱の運搬にも、馬力を苦しそうに喘《あえ》がせて、泥煙をすさまじく突き揚げている、土工列車がプラットホーム近くで進行を止めた時、渋谷の方から客車が来た。掘割工事のところに入ると徐行して、今土工列車の傍を通る。土方は言い合わせたように客車の中をのぞき込んだが何か眼についたものと見えて、
「ハイカラ! ここまで来い」
「締めてしまうぞ……脂が乗ってやあがら」
「女
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