に多少の文字ある駅夫などがかえって見苦しい虚栄《みえ》に執着して妄想の奴隷となり、同輩互いに排斥し合うているのに、野獣のような土方や、荒くれな工夫が、この首領の下に階級の感情があくまでも強められ、団結の精神のいかにもよく固められたのを見て、私はいささか羞かしく思うた。あらぬ思いに胸を焦がして、罪もない人を嫉《ねた》んだり、また悪《にく》しんだりしたことのあさましさを私はつくづく情なく思うた。
工事は真夏に入った。何しろ客車を運転しながら、溝《みぞ》のように狭い掘割の中で小山ほどもある崖を崩《くず》して行くので、仕事は容易に捗《はかど》らぬ、一隊の工夫は恵比須麦酒《えびすビール》の方から一隊の工夫は大崎の方から目黒停車場を中心として、だんだんと工事を進めて来る。
初めのうちは小さいトロッコで崖を崩して土を運搬していたのが、工事の進行につれて一台の汽鑵車を用うることになった。たとえば熔炉の中で人を蒸し殺すばかりの暑さの日を、悪魔の群れたような土方の一団が、てんでに十字鍬《つるはし》や、ショーブルを持ちながら、苦しい汗を絞って、激烈な労働に服しているところを見ると、私は何となく悲壮な感に
前へ
次へ
全80ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
白柳 秀湖 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング