振り向きさま、月あかりにすかして見ると驚いた。この間雨の日に停車場で五銭の白銅をくれてやった、あの少年ではないか。
「君か、君こそどうしてこんなところに来ているのかい」と私はニタニタ笑っている少年の顔を薄気味悪くのぞきながら問い返した。
「おらア当り前よ、ここのお客様に貰いに来ているのじゃあないか、兄やこそおかしいや!」と少年はしきりに笑っている。
 ああ、少年は火葬場に骨拾いに来る人を待ち受けて施与《ほどこし》を貰うために、この物淋しい月の夜をこんなところに彷徨《うろつ》いているのだ。
 五位鷺《ごいさぎ》が鳴いて夜は暁に近づいた。

     十七

 その年も暮れて私は十九歳の春を迎えた。
 停車場《ステーション》ではこのごろ鉄の火鉢に火を山のようにおこして、硝子《がらす》窓を閉めきった狭い部屋の中で、駅長の影さえ見えなければ椅子を集めて高谷千代子と大槻芳雄の恋物語をする、駅長と大槻とは知己なので駅長のいる時はさすがに一同遠慮しているけれども、助役の当番の時なんぞは、ほとんど終日その噂で持ちきるようなありさまである。おれはかしこの森で二人の姿を見たというものがあれば、おれはここの
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