です。プラットホームで足立さんに会って挨拶をしていると、今の一件です。
駅長さんが飛び出したもんですから、私もすぐその後へついて行った。この児が」といいかけてちょっと私の方を見て、「野郎に突き倒されるのを見ると、グッと癪《しゃく》に障《さわ》って男の襟頸《えりくび》を引っ掴んで力任せに投げ出したんです、するとちょうど隧道《トンネル》に支《つか》えた黒煙が風の吹き廻しでパッと私たちの顔へかかったんでどうなったか一切夢中でしたけれども、眼を開《あ》いて見ると可哀そうに野郎インバネスを着たまま横倒しに砂利の上に這《は》いつくばっている……」
「マア!」と言うて人のいい細君は眉を顰《ひそ》めた、私も敵《かたき》ながらこの話を聞いては、あんまりいい気もしなかった。
「それから足立さんと二人で、男を駅長室に連れ込んで談《はな》して見たところが、イヤどうも分らないの何のって、工学士と言えば、一通りの教育もありながら、あんまり馬鹿げていて、話にも何にもならないです」
「悪かったとも何とも言わないのですか」
「ヤレ駅夫が客に対してあんまり無法なことをするとか、ヤレ自分は工学士で汽車には慣れているから、
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