。コスモスの花に夕日がさして、三歩の庭にも秋の趣はみちみちている。
「オ※[#感嘆符三つ、450−上−4] 奥さんですか、今日はとんだことでしたね」と言う声に見ると、大槻が開け放して行った坪の戸から先刻《さっき》プラットホームで見受けた工夫頭らしい男が、声をかけながら入って来たのであった。細君は立ち上って、
「マア小林さん、今日は……随分久しぶりでしたね」という口で座蒲団を出す。小林はちょっと会釈して私を繃帯の下からのぞくようにして、
「どうだい君! 痛むかい、乱暴な奴もあるもんだね」
「え、ありがとう、なに大したこともないようです」
「傷も案外浅くてね、医者も一週間ばかりで癒《なお》るだろうって言うんですよ」と細君が口を添える。
「奥さん、今日は僕も関係者《かかりあい》なんですよ」
「エ! どうして?」とポッチリとした眼をみはる。
「あんまり乱暴なことをしやあがるので、ツイ足がすべって野郎を蹴倒《けたお》したんです」と言うたが細君の汲んで出した茶をグッと飲み干す。私は小耳を引っ立てて聴いている。

     十二

「今度複線工事のことについてちょっと用事が出来てここまでやって来たの
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