の青年である。丈《せい》はスラリとして痩型《やせぎす》の色の白い、張りのいい細目の男らしい、鼻の高い、私の眼からも惚《ほ》れ惚《ぼ》れとするような、嫉《ねた》ましいほどの美男子であった。
 私は毎朝この青年の立派な姿を見るたびに、何ともいわれぬ羨《うらや》ましさと、また身の羞《はず》かしさとを覚えて、野鼠《のねずみ》のように物蔭《ものかげ》にかくれるのが常であった。永い間通っているものと見えて、駅長とは特別懇意でよく駅長室へ来ては巻煙草《まきたばこ》を燻《くす》べながら、高らかに外国語のことなどを語り合うているのを聞いた。
 私の眼には立派な紳士の礼服姿よりも、軍人のいかめしい制服姿よりも、この青年の背広の服を着た書生姿が言い知らず心を惹《ひ》いて堪えられない苦痛《くるしみ》であった。私は心から思うた、功名もいらない、富貴《ふうき》も用はない、けれどもただ一度この脂垢のしみた駅夫の服を脱いで学校へ通うてみたい……
 ああ私の盛りはこんなことをして暮らしてしまうのか。
 私は今ふと昔の小学校時代のことを想い出した。薄命な母と一しょに叔父《おじ》の宅《うち》に世話になっていたころ、私は小学
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