から」というと紳士は黙って諾《うなず》いた。
「じゃあ君もね」と工夫頭の方を向いて駅長が促した。その親しげなものの言い振りで私ははじめて、二人が知己《しりあい》であるということを知った。
駅長は親切に私をいたわって階壇を昇《のぼ》るとその後から紳士と工夫頭とがついて来た。壇を昇りきると岡田が駆けて来て、
「大槻さんが今すぐに参りますそうで」と駅長の前に呼気《いき》を切りながら復命した。
十一
私はそのまま駅長の社宅に連れて行かれて、南向きの縁側に腰を下すと、駅長の細君が忙わしく立ち働いていろいろ親切に手を尽してくれる。
そこへ罷職軍医の大槻|延貴《のぶたか》というのがやって来て、手当てにかかる。私はジッと苦痛《くるしみ》を忍んだ。
手術はほどなく済んで繃帯も出来た。傷は案外に浅くって一週間ばかりで全治するだろうという話、細君の汲んで来た茶を飲みながら大槻は傍にいた岡田を相手に、私が負傷した顛末《てんまつ》を尋ねると細君も眉《まゆ》を顰《ひそ》めながら熱心に聞いていたが、
「マア、ほんとうに危険《あぶな》いですね、――それにしても藤岡さんがいなけれゃあ、その人は今ご
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