女を相手に聞きぐるしい、恥かしいことを語りおうていたが、果てはさすがに口へ出しては言いかねるものと見えて、小さい紙片に片仮名ばかりで何やら怪しいことを書きつけては渡してやる。
女はそれを拾い読みに読んでは娯《たの》しんでいる。その言いしれぬ肉のおもい[#「おもい」に傍点]を含んだ笑い声が、光の薄い湿っぽい待合室に鳴り渡って人の心を滅入《めい》らすような戸外《そと》の景色に対《くら》べて何となく悲しいような、またあさましいような気がして来る。
「あれ――河合さん嫌《いや》だよ、よう! 堪忍してよう!」と賤しい婦人《おんな》の媚《こ》びるような、男の心を激しく刺激するような黄いろい声がするかと思うと、ほかの連中が、ワッと手をたたいて笑う、
「もう雷様が鳴らなけりゃあ離れない、雷様が」と河合が圧《お》しつけるような低い声で言う。
「謝ったよう! 謝った」と女は泣くように叫ぶ。一番|年量《としかさ》の、多分高谷の姿でも真似たつもりだろう、髪を廂《ひさし》に結うて、間色のリボンを付けたのが、子を負ったまま、腰を屈めて、愛嬌の深い丸顔を真赤にしてしきりに謝っている。
見ると女はどうしたものか火
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