れるころから、風が少し出た。
 夜、この村で操人形《あやつりにんぎょう》があると言うので、二人で見に行くことにした。晩餐《ばんさん》がすむと、S君の襟巻を借りて、それで頭からスッポリと包んで目ばかり出した。用意ができると、提灯に火をつけて、昨夜はいって来た裏口の方から出た。二人とも、草履を穿《は》いて、ギシギシと、今日降った雪を踏みつけて行く。
 畑も、道も一帯に区別がなくなっている雪の中を一條、踏みつけた道ができている。それを歩るいて[#「歩るいて」はママ]行くのである。寒い風の吹きつけてくるなかを行く。自分には方角がわからないが、足もとばかり気にしてまだかまだかと、思いながら行くと、やっと、人の声ががやがや聞こえる。雪の中に三人五人と一団になって立っている。
 そこは、やはり百姓屋の一軒で、ずっと軒のところにはいって行くと、真暗な縁にも人が集まっている気配がする。
 家の中にはいると、湿った臭《におい》の沁みたような気が顔を打つ。S君はそこにいる若い男に頻りと挨拶をして、室の中にはいった。
 室の中には、女や子供が二十人ばかりいた。自分達がはいって行くと、一時に振り返ったが、不思議
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